2008/07/20 掲載情報
信頼関係で見る地域と産業の関係―豪州マレニー町
オーストラリア、クイーンズランド州南東部、サンシャインコーストの山沿いにあるカランドラ市マレニー町は人口7300名弱。30年前の1970年代には人口は800人程であった。当時、ほとんどの店は閉鎖され、街を歩く人々や農家の人は、落胆したような精気のない町であったという。町の歴史を省みると、林業で生計を立て、木々を伐採し、切り尽くした後は、酪農を始めた。1900年代に酪農業が主要産業として成立し、加工品であるバターを都市部へ供給し、イギリス等へも輸出していた。1950年代までにマレニーの酪農業は絶頂期を迎え、マレニー居住者のほとんどが酪農家として乳製品加工場(Maleny Co-operative Dairy Association)の組合員となった。
ところが、1973年のイギリスのEEC加盟によって、最大の輸出先イギリス(全輸出額の70%)を失い、また貿易の自由化や資本取引の自由化によって多国籍の酪農資本のオーストラリア進出が乳製品加工工場を次々に淘汰していった。こうして、マレニーの酪農家の4分の3が壊滅し、マレニーの乳製品加工場も1979年代には閉鎖された。乳製品市場の落ち込みと企業の買収で、畜産業に移行したものの、安価な市場に運営も難しくなった。多量に散布された化学肥料や農薬によって汚染された土壌に作物を育てる力もなくなり、更にお金がかかる、という悪循環に陥っていた。
このようにして、酪農業に依存していたマレニー町は、酪農業の衰退とともに、運送業、小売業、飲食業など地域全体が衰退し、現金収入の基盤を失い人々は町から離れていった。
さて、30年前の人口、800人程から7,300人に至った現在、町の経済的、社会的、環境的な恩恵が生み出された。<経済的な恩恵>については、約20件のフルタイムの仕事、90件のパートタイムの仕事が約5,000人の地区住民の直接的雇用に繋がっている。間接的雇用を入れると、200件以上の雇用が増えた。観光産業では、特に文化的・教育的な観光業が拡大し、海外からの訪問者がある。<社会的・文化的な恩恵>は、コープ(協同組合)内のメンバーのトレーニングにより、関与した人々を大きく成長させた。信用、市民の責務、ネットワークが際立って発展している。住民の自立意識が向上し、LETS(レッツ、地域通貨)導入により、物資やサービスを通常の雇用制度に頼らずに受給できるようになった。コミュニティとして、新・旧移住者、また若者と高齢者を分けていた壁が薄くなり、住民の社会的な繋がりが強くなった。<環境的な恩恵>としては、コミュニティの中で、地球に負荷のない生活に心がけるようになり、ゴミ処理、代替エネルギー、エコ商品など環境に考慮した暮らしが広がった。
何故、このような事が可能になったのか、後にマレニー町を代表するカサンドラ市議会議員になったジル・ジョーダンは、当時、無農薬のハーブや野菜、果物を作り始め、10年を経た頃、6人の仲間で街のメインストリートにコープを構えた。収穫した野菜や果物の余剰物と玄米や全粒粉などを販売すると共に、徐々に街の情報センターとして仕事や住宅の情報を提供する場になった。
1983年、コミュニティ内の団体に、銀行の収益の一部を利用できるような助成金制度も始め、地元の学校、病院、青年グループ、環境グループなどが利用した。しかしコミュニティ内での貧富の差は変わらず、1987年に地域内のみで通用する地域通貨LETS(レッツ)を取り入れ、その導入は、大成功を収め、低所得の人々に、彼らの望む暮らしを手に入れる大きな助けをした。そして、現在、オーストラリア中に300以上のレッツが誕生している。
1989年には、リサイクル・コープを立ち上げ、資源の再利用と環境不可の軽減、街の雇用率の向上に寄与した。例えば、古い家具の運搬、修繕、販売業、電化製品、自転車やバイク、冷蔵庫の修繕屋などが生まれ、1990年代始めには、オーストラリア東海岸全域で多くの団体がリサイクル・コープ、またはリサイクル組織を立ち上げ、ゴミ捨て場の6割の土地が抑えられた。
2001年に自治体は、1989年のリサイクル・コープをモデルに、巨大なリサイクル・センターを都市化問題のゴミ対策として設立を決めた。他、多くの様々なコープを立ち上げ、マウンテン・フェアー女性啓発コープ、バラング・ランドケア(土壌、水質、水源管理コープ)、ピース・オブ・グリーン(芸術家のコープ)、アップ・フロント・クラブ、そしてリードという地域経済・企業発展の支援を活動するコープを立ち上げた。このクレジット・ユニオンとリードのパートナーシップにより、通常、初めの数年で潰れてしまうケースの多い小規模経営を始めた人々のリスクを大幅に減らすことができた。
現在、クレジット・ユニオンは1,500万ドルを超える資金を持ち、銀行のビルを所有し、6,000人近くのメンバーを抱え、街に230種の雇用を作り出した110件の新ビジネスを産むに至っている。
このように、マレニー町は地域内経済の仕組みが互酬的なネットワークで形成され、大きく成長した。昨年11月に町の人達、10代から70代までの11人を無作為にインタビューした。それによると、コミュニティに網羅された互酬的な寄付行為や交換取引があり、相互扶助的な社会のシステムのおかげで安心して暮らせるなどの意見や大手資本スーパーの流入に93%にも上る地元の反対や環境破壊に対するゴルフ場反対者が73%いることなどがわかった。また、女子高校生2人は、町には顔の見える関係があり安心して暮らせると語った。シングルマザー、高齢者の方は揃ってセイフティネットがあると語った。なぜこのような町になったのか、その倫理性を問うことはわれわれ日本での市民バンクに問われる重要な要素に思えてならない(松下修)。
参考図書:『個人のライフスタイルとコミュニティーの自立』(ジル・ジョーダン著、デジャーデン由香理訳、沖国大ブックレットNo.11、2003年)
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