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お金の話01「無駄な公共事業と住民が考える」

◆お金の話 第1回
「無駄な公共事業と住民が考える―川辺川ダム問題」

 公共事業とは、「中央政府や地方公共団体が、市場による供給が望みにくい財・サービスを提供する事業のこと。一般には、サービス主眼の公益事業と区別される」(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)とあります。税金などの公的資金を元に、民間企業では資金面の問題や費用回収の点で、実施するのが困難な事業を国や自治体が行う事業と解釈していいのかもしれません。大きな所では、道路建設や港湾・ダム建設事業、身近な所では水道事業など様々な公共事業が私たちの周りにはあります。

 全ての公共事業が問題だというわけではありませんし、中には国民や地域住民に感謝されている公共事業も沢山あると思います。

 今回は、公共事業の悪しき見本として川辺川ダム問題について紹介します。公共事業の問題を探るときの典型的な事例だと思いますので、参考にしてもらえたら幸いです。

 川辺川ダム計画は1966年に発表されました。建設予定地は球磨郡相良村。球磨川最大の支流、川辺川を高さ107メートルのコンクリートの構造物で塞ぎ、水を貯め、洪水防止、農業用水、発電に利用しようというものです。

 計画発表当初、水没予定地の五木村では裁判闘争も含む激しい反対運動が起こり、そのあと1990年代に入り、反対運動は下流域の相良村や人吉市、そして90年代半ば以降、反対運動は球磨川河口の八代市、県庁所在地の熊本市に拡大していきました。そして、ダムの水を農業用水に利用する利水事業は農民の起こした裁判で2003年に国が敗訴。またダム事業自体も漁民の持つ漁業権を強制収用することが妥当かどうか審査する熊本県収用委員会が2005年に強制収用の取り下げ勧告を出したことによって事実上白紙化しています。そして、皆さんも御存知の通り、今年9月には熊本県知事がダム事業の白紙撤回と
ダムによらない治水対策を国に求めるまでに至っています。

 住民がダムに反対した理由として、洪水防止については、ダムがなくても過去最大の洪水は防ぐことが出来るし、逆にダムがあると、放流によって危険になるということです。球磨川には上流から市房・瀬戸石・荒瀬という三つのダムが建設されています
が、「ダムが出来る前は大きな水害はなかった。ひどい水害が頻発するようになったのはこれらのダムが出来てから」と証言する住民がダムに反対するのは当然です。

 また、農民が裁判を起こしてまでダムの水を拒否した背景には、減反政策や農作物の輸入自由化問題、後継者不足と高齢化の問題で農業の先行きが不透明と化し、農業用水の需要も以前ほどではなくなったということがあります。ダムの水を引くと費用負担が生じますが、それらに見合う収入が得られなければダムの水を引いても割に合わない訳です。

 発電も発電事業者が撤退することが明らかになっています。目的の破綻だけではなく、ダムは水質汚濁などによって鮎などの漁獲高の減少など河川や海の環境に多大なる悪影響を与えることは周知の事実となっています。

 このように住民の実態や民意と離れて国が強行しようとしたためこの川辺川ダム建設事業は頓挫した訳ですが、ダムの事業費はどうだったのでしょうか?以下を見てください。

時期              総事業費
1976年の基本計画        約350億円
1984年の見直し時        約1130億円
1998年の基本計画変更時     約2650億円
2004年の国土交通省の内部文書  約3300億円

 2004年の総事業費は正式決定した額ではありませんが、1976年から2004年にかけての約30年間で、9倍以上に膨らんでいます。ダム本体だけでこれだけですから、周辺の利水事業やダムに砂をためないように上流に砂防ダムを作る事業をあわせると、5000億円を超えるものと言われています。 住民の役に立つ事業ならまだしも、住民が望まない事業がなぜ、このように巨額になってしまうのでしょうか。さまざまな理由が考えられますが、大きな原因は、こういう公共事業が民意の反映や住民のチェックが全く入らない構造になっていることです。

 予算の承認自体は国会で行われますが、計画の立案自体は主管官庁である国土交通省が行います。また、事業費を含んだ基本計画が関係する都道府県に提示され、そこの知事は都道府県議会の過半数の同意を得て、基本計画に対する意見を出すことになっています(特定多目的ダムの場合)。一応、国会や都道府県議会がチェックできる形にはなっていますが、議会はダムに賛成の与党が多数を占めていますので、十分な議論が行われることはなく、基本計画がそのまま認められ、それに見合う予算が確保されることになってしまうのです。

 私はこの川辺川ダム反対運動を熊本市内から支援する活動を10数年間やってきました。反対運動というとただ単に反対ばかり言うというイメージがあるかもしれませんが、川辺川ダムに反対する住民はダム建設に反対するだけでなく、ダムに依らない治水案というのを提案してきました。

 具体的には堤防のかさ上げや強化、川床にたまった土砂の撤去、川幅の拡幅、住宅や道路のかさ上げなどです。これらの施策は、ダム建設より桁違いに少ない費用で、しかも短期間で環境への影響も少なく実施出来ます。

 そして何より重要なのは、ダムの本体工事は大手のゼネコン業者しか受注出来ませんが、これらの工事は地元の業者で実施出来ると言うことです。ゼネコンが受注すれば、税金は丸ごとゼネコン業者が中央に持っていきますが、地元業者が受注すれば、税金が地域で循環していくことになります。

 また、流域の森林を適正な間伐などで整備することによって、森林の保水力の向上と林業の復興も住民側が提案したことがあります。これなどは、ダムの維持費(年間数億円)程度の費用で実施できるものです。森林の整備によって、大量伐採で荒廃した山林が緑豊かな山林に生まれ変わり、雨水が蓄えられ、川の水量も昔のように豊かになり、ひいては海に山林の養分がもたらされることによって海の環境の復活も期待できることになります。また間伐を行う「森林整備隊」の雇用が地域に生まれま
すので、地域振興にもつながります。

 このように住民運動は無駄な公共事業に反対するだけでなく、地域を新しい公共事業で振興させていくという大きな「夢」も抱きながら進められています(土森武友 子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会 事務局長 http://kawabegawa.jp/)。

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